Tu Veux, Tu Veux Pas 巨星、墜つ ―蜷川幸雄さんの訃報に寄せて―

巨星、墜つ ―蜷川幸雄さんの訃報に寄せて―

日本を代表する演出家・蜷川幸雄さんが、2016年5月12日に永眠されました。
8月のシアターコクーンで、みたび森田剛さんを主演に据え、唐十郎さんの伝説の戯曲『ビニールの城』を上演することが決まっていた矢先の、あまりにも悲しい訃報でした。

私が蜷川さんの作品を初めて観劇したのは、1998年の『身毒丸』でした。きっかけは、中学時代から傾倒していた寺山修司の戯曲だったこと。それまで寺山作品と言えば、モノクロの実験映像のみに親しんできた私にとって、まさにその映像世界が極彩色を帯びてこの世に具現化されたかのような演出、そして主演の藤原竜也さん・白石佳代子さんの圧倒的な存在感に、これ以上ないほど強烈なインパクトを受け、放心状態で帰途についたことを思い出します。

それまでの私にとっての演劇体験は、ミュージカル、そして祖父や母と見物した歌舞伎が全てで、蜷川さんに出会ってから、「観劇」という趣味が私の人生を彩るようになりました。

私が観劇した作品を下記にまとめました。

•1998年 『身毒丸』
•2000年 『唐版 滝の白糸』『近代能楽集 卒塔婆小町/弱法師
•2002年 『身毒丸FINAL』
•2003年 『エレクトラ』
•2005年 『近代能楽集 卒塔婆小町/弱法師』
•2006年 『間違いの喜劇』『タイタス・アンドロニカス』『あわれ彼女は娼婦』『オレステス』
•2007年 『藪原検校』『お気に召すまま』『オセロー』『カリギュラ
•2008年 『リア王』『わが魂は輝く水なり』『道元の冒険』『身毒丸復活』
•2009年 『ムサシ
•2010年 『血は立ったまま眠っている』『ムサシ ロンドンNYバージョン』『じゃじゃ馬馴らし
•2011年 『ミシマダブル サド侯爵夫人わが友ヒットラー
•2012年 『下谷万年町物語』『ボクの四谷怪談』『日の浦姫物語』 
•2013年 『祈りと怪物』『盲導犬』『唐版 滝の白糸』
•2014年 『冬眠する熊に添い寝してごらん』『皆既食』
•2015年 『ハムレット』『青い種子は太陽のなかにある』

こうして改めて振り返ると、いろいろなことが懐かしく思い出されます。(当時の観劇感想があるものは、タイトルにリンクを貼っています) 特に忘れがたい作品を挙げるとすれば、やはり『身毒丸』『タイタス・アンドロニカス』『近代能楽集・弱法師』『血は立ったまま眠っている』でしょうか。

蜷川さんといえばおなじみの劇場は、芸術監督を勤める『彩の国さいたま芸術劇場』『シアターコクーン』の2つで、どちらにもよく通いました。
ケラさんがこうツイートしていたように、「世界のニナガワ」でなければ成し得なかった、シアターコクーンでの試み。
それは、ケラさんが執筆された戯曲を、先にケラさんが一ヵ月間演出、その後蜷川さんが一ヵ月間演出、計二カ月連続で公演された、『祈りと怪物』。
そして、三島由紀夫の「この2作は一対の作品、同じ俳優、同じセットでやって欲しい」という意志に沿って、全く同じキャストが、二つの作品を日替わりで上演するという『ミシマダブル サド侯爵夫人/わが友、ヒットラー』。(これは演じる俳優にも、会場であるシアターコクーン側にも、相当な負担が掛かったことかと思います)
興業的・演劇史的な観点から見ても、二度と無いだろうこの貴重な試みを実体験できたことも、私にとって大切な宝物の一つになっています。

そして、蜷川さんによって発掘された数多くのきらめく才能たち。
須賀健太さんがこうツイートしているように、蜷川作品に出演することを夢見て精進していた若手俳優さんも、多くいたことでしょう。藤原竜也さん、森田剛さん、小栗旬さん、勝地涼さん、西島隆弘さん、窪田正孝さん、満島真之介さん、高橋洋さん…皆みな、蜷川さんの作品でその才能の片鱗に触れ、好きになった俳優さんばかりです。

蜷川さんは、ギリシャ悲劇やシェイクスピアを斬新な手法で演出し、この現代日本にも通じる普遍性のあるテーマを持った作品として、古典に親しむきっかけを拓いて下さいました。
一方で、アングラ演劇時代に親交のあった清水邦夫さん、唐十郎さんの作品も多く手掛けられ、いわゆる安保闘争や学生運動にに沸くエネルギッシュで猥雑な時代を、そのまま板の上に再現して下さいました。

とりわけ私にとって、三島由紀夫と寺山修司の、滅多に上演されない貴重な戯曲を、これ以上なく作者の意図に添う形で上演して下さったことが何よりもありがたかった。他のどの演出家の手にかかるよりも、作品の魅力が存分に引き出されていたし、詩のように美しい台詞ひとつひとつに拘りを持って演出してくださっていて、一ファンとして観劇するのが本当に楽しみでした。

人間が持つ、むきだしの欲望、愛、そして純粋さ。
権力者たちに翻弄されながらも、たくましく生きようとする市井の人々の力強さ。
主演・助演・カンパニーの端々に至るまで、蜷川さんによって鍛えられた役者さんたちの放つパワーに、いつも圧倒され、彼らの生き様から沢山のものを得ることができました。

お亡くなりになる前日にも、枕元に三冊の台本があったという蜷川さん。「疾走するジジイでいたい」と仰り、年間に何本も手掛けられてきた舞台への情熱の産物を、もう二度と観られないのかと思うと、悲しくて、寂しくて、胸が張り裂ける思いです。
改めて、舞台は生ものであり、ドラマや映画と違って、いま、その場で観なければ、二度とその瞬間の感動は蘇ってこないのだということを、思い知らされます。

まさに「巨星、墜つ。」 
ただただ、心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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テーマ : 演劇
ジャンル : 学問・文化・芸術

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