Tu Veux, Tu Veux Pas 『ビニールの城』を観る

『ビニールの城』を観る

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演出家・蜷川幸雄さんの遺作となった『ビニールの城』を観劇しましたので、その感想などまとめました。

<出演>
出演:森田剛/宮沢りえ/荒川良々/江口のりこ/大石継太/鳥山昌克/柳憂怜/石井愃一/金守珍/六平直政
脚本:唐十郎/演出:金守珍/監修:蜷川幸雄
会場:Bunkamuraシアターコクーン



劇場に入ると、壁一面、階段の柱にも、蜷川さんが役者にお稽古をつけてらっしゃる写真のパネルやポスターが掲示されていて、改めて蜷川さんの存在の大きさを感じ、それだけで涙が出ました。
今まで30あまりの作品を拝見しましたが、やはり蜷川さんと言えば芸術監督を務められたシアターコクーン、そしてさいたま芸術劇場なので、ここに来ると感慨もひとしおです。

「アングラ演劇の最高傑作」と謳われる今作を上演するにあたり、どれだけ蜷川さんが万全の体制で臨んだかということは、キャストの顔ぶれからも伝わってきます。それだけに、蜷川さんがお亡くなりになったことが本当に残念だったのですが、今回観劇するに、街のネオンや鏡張りの背景、本水、クレーンやダイナミックな「ビニールの城」セット等、今までの蜷川演出で使用された美術に似たものが用いられており、演出を引き継がれた金守珍さんが「今回、演出を依頼されたからには、蜷川さんはこうしたかったであろうとイメージし、そこに向かって全力で進むしかない」とインタビューでおっしゃっていたとおり、かなり蜷川さんのエッセンスを感じられる舞台になっていました。

まずは主演・朝顔役の森田剛さん。
今回森田さんを拝見して、彼が舞台俳優として活躍し、評価を得ていることに、一種の運命性のようなものを感じました。
“キャラメルボイス”と表現される独特の声と、天性のリズム感(音楽に身体を委ねているというよりは、もはや彼自身がリズムそのものと言っても過言ではないほど)や身体能力の高さは、もちろんアイドルとしての彼の魅力になり得ているわけですが、それは同時に、舞台俳優としての彼の最大の武器にして長所になっているのだ、ということを改めて感じました。
小柄で痩身の体躯。どこかノスタルジーすら感じさせる高く甘い声音。その身にまとう孤独感と屈折性。黒目がちな瞳が宿す純粋さ。そのなかで時折牙をむく、強い意思の輝き。37歳にして彼から感じられる少年性は、他のどの俳優にも持ち得ない才能だと思います。
人形にしか自分の本音を話せない内向的な一面、夜ごとビニールの中の女性には語りかけても、生身の女性には真っ直ぐ目を見て話すことすらできないナイーブさ、そして水没した人形を助けるため、手錠を掛けられたまま水槽に飛び込むことも厭わない、人形に対するある種の狂気を帯びた執着…「朝顔」という人物の全てを表現できるのは森田剛しかいないという絶対的な確信を、彼の演技を見るにつけ感じるのです。

今まで何度もblogに書いてきましたが、蜷川さんは常々「俳優に屈折性を求めている。屈折しているのが現代的である」と仰っていました。『祈りと怪物』で、同じ脚本をケラさん・蜷川さん2人の演出家がそれぞれ公演した時、否が応でも比較される主人公に森田さんを選んだこと、そして今回「アングラ演劇の最高傑作」と謳われ、ご自身も力を入れていた作品で森田さんを主演に据えたことを鑑みるに、如何に森田さんが蜷川さんに期待され、評価されていたのかということが伝わってきます。
なかなか彼の舞台を観ることができない方にも、映画『ヒメアノ~ル』を通してその演技力の高さ、唯一無二の存在感が広まっていることが嬉しい今日この頃ですが、これからも舞台俳優として活躍して欲しいと、強く思いました。

そして、『下谷万年町物語』『盲導犬』とヒロインを務め、唐十郎✕蜷川演出のミューズとも言うべき、モモ役の宮沢りえさん。蜷川さんが「ちょっとはすっぱなにおいのする、こんな上手い子は他にいない」と絶賛した彼女の実力とその魅力に、今作品も目を奪われました。唐十郎作品で観る彼女はいつもエネルギッシュで、大輪の花のように艶やかで美しいのに、はすっぱで、どこかうらぶれたような雰囲気すら感じられる。きっとそれが、唐十郎さんの求める一貫したヒロイン像、理想的な女性像に通じているのかな、と感じています。

腹話術人形にしか心を開かず(=リアルな社会には心を閉ざし、ネット界に引きこもる)、操る人形に自らの本音を喋らせる(=ネットやSNS上で別人格を演じ、そこでは普段言えないこと、本音を吐き出す)部分に、現代に通じるテーマ性を感じた作品でした。
その一方で、重要なモチーフになっている「ビニ本」、そしてその言葉が放つ何とも湿っぽい昭和の猥褻さや裏に潜む暴力性が分からないと、この作品の真の魅力というか、ケモノのような独特の臭い、それを生業にしなければ生きていけないモモの哀しさが伝わりにくいのではないかな、とも感じました。(昭和50年代に生まれた私でも、わりとギリギリの線…)

唐十郎さんの脚本は、『唐版・滝の白糸』『下谷万年町物語』『盲導犬』と拝見していますが、相変わらず台詞量が多く、全てに集中して耳を傾けようとすると、かなりの疲労感を感じます。今回も2時間5分の作品でしたが、3時間半くらいの濃密な時間を過ごした思いです。

鳴りやまないカーテンコールの中、出演者たちに手招きされた蜷川さんが、いつもの全身黒尽くめのお洋服で、はにかんだ笑顔を浮かべながら、今にもステージ袖からひょっこり出ていらっしゃるような気がしました。蜷川さんが最期に手掛けられた作品を観劇できて本当に良かった。やはり私にとって、大きな影響を与えてくださった、とても大切な方です。
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テーマ : 演劇
ジャンル : 学問・文化・芸術

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